大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8677号 判決

第一 当事者

原告

福本昇

訴訟代理人

持田幸作

被告

伊達忠成

<外二名>

訴訟代理人

松本孝一

第二 主文

一1  原告が被告伊達に賃貸中の別紙物件目録一記載の土地の昭和四九年一月一日以降の賃料は、月額金八、二〇〇円を正当とする。

2  被告伊達は、原告に対し、金四五万円およびこれに対する昭和四七年一〇月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二1  原告が被告田島に賃貸中の別紙物件目録二記載の土地の昭和四九年一月一日以降の賃料は、月額金九、三〇〇円を正当とする。

2  被告田島は、原告に対し、金四二万円およびこれに対する昭和四七年一〇月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三1  原告が被告笠井に賃貸中の別紙物件目録三記載の土地の昭和四九年一月一日以降の賃料は、月額金九、〇〇〇円を正当とする。

2  被告笠井は、原告に対し、金五一万円およびこれに対する昭和四七年一〇月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。

第三 事実

一  請求の趣旨

主文一1、二1、三1項同旨、および、同一2、二2、三2項については主請求の金員をそれぞれ金一二三万円、金一三九万五千円、金一三五万円とする外は同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

請求棄却。

三  請求原因

1(一)  原告は、被告伊達に対し、別紙物件目録一の土地を、被告田島に対し、同二の土地を、被告笠井に対し、同三の土地(以下本件各土地と呼ぶ)を、建物所有の目的で賃貸中であるが、その賃料は昭和四六年一二月分以降、それぞれ月額金四、一〇〇円、金四、六五〇円、金四、五〇〇円(いずれも三、三m2当り金五〇円)である。

(二)  本件各土地に対する公祖公課は急激に増加し、かつ本件土地の価格を含めて物価は急上昇しており、右事実に照らして、本件各土地の前記各賃料は不相当なものとなつた。

(三)  原告は、被告ら三名に対し、昭和四八年一二月一四日、それぞれ賃料を月額金八、二〇〇円(伊達)、金九、三〇〇円(田島)、金九、〇〇〇円(笠井)(いずれも三、三m2当り金一〇〇円)に増額する旨の意思表示をした。しかし、右増額について原被告ら間に協議が調わない。

2(一)  本件各土地の各賃貸借契約は、いずれも昭和二六年一二月に期間二〇年として締結されたもので、昭和四六年一二月一七日に期間満了となり、各契約は更新された。

(二)  借地契約において、契約期間が満了して契約が更新される場合は、賃借人は賃貸人に対して更新料として一定の対価を支払うべき義務がある。これは、現在では、事実たる慣習であるか又は慣習法上認められているところである。

本件契約における更新料の額は、三、三m2当り借地権価格の7.5%を適当とするが、本件各土地の借地権価格はいずれも三、三m2当り金二〇万円とみるべきであるから、計算すると請求の趣旨記載の各金額となる。よつて、原告は、被告らそれぞれに対し、右各金員とこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利がある。

四  請求原因に対する認否

1  第1項は、(一)(三)を認め、(二)を否認する。

2  第2項は、(一)を認め、(二)を否認する。

五  抗弁

借地法四、六条は、法定更新の成否を賃貸人主張の正当事由の存否のみによつて決せられるべきものとしており、金銭の授受やその他の条件を要件としていない。そして、右規定は強行規定である。従つて、更新料支払の慣習はこれに違反している。

六  抗弁に対する認否

否認する。

証拠<略>

第四 理由

一賃料値上げについて。

1  請求原因第1項(一)(三)は当事者間に争いがない。

2  同項(二)について判断する。<証拠>によれば、前回の賃料値上げ後の期間において相当程度において本件土地に対する公租公課の増加および本件土地価格の上昇のあつたことが認められ、右事実に照らすと、原告の今回の各賃料増額はいずれも全部正当なものであると認められる。

二更新料請求について。

1  請求原因第2項(一)は当事者間に争いがない。

2  同項(二)について判断する。

(一)  東京都区内においては、建物所有を目的とする土地賃貸借契約において、契約期間が満了して契約の更新が行われる際に、建物の存する場合、特別の事情のない限り、賃借人より賃貸人に対して更新料の名の下に相当額の金員を支払うという慣習が存在している。右の更新料は、更新の請求又は使用継続による法定更新(借地法四、六条)がなされていることを前提として単に更新料の支払のみが約定されることもあり、又、合意による更新(同法五条)の際にいわば更新の条件という形でその支払が約されることもある。形式としては、むしろ後者の場合が多いが、借地法に既に法定更新の規定がある現在では、更新の合意は賃貸人において法定更新に対して異議を述べないということを確認する以上の意味はなく、更新の効果を生ずるという点からみる限り法定更新と合意更新とを区別する実益はない。合意更新が成立するに至る実際の経過を見てみても、賃貸人は法定更新を前提として単に期間満了を契機として更新料の支払を請求し、賃借人とその額について合意が成立した場合、念のため賃貸借契約自体も合意によつて更新するという形をとるに過ぎない場合が殆んどである。(もし法定更新が成立しない場合であれば、その際の合意更新は実質的には新契約による借地権設定と同様であるから、賃貸人は通常の権利金相当額を要求する筈で、少額の更新料で満足する訳はない。)右に見たように、更新料は、法定更新の場合であると合意更新の場合であるとを問わず、要するに期間満了により更新するに際して更新自体を理由として支払われるものであるということができる。

以上の更新料支払の慣行は、今や社会の法的確信に支えられた慣習法であるといえないこともないが、たとえそこまでは認められないとしても、所謂事実たる慣習としては既に確固として成立しているものというべきであり、右事実は当裁判所に顕著である。

(二)  ところで、民法九二条の趣旨および借地法八条の二、一二条の精神から考えると、宅地の賃貸借契約の当事者は、契約当時に存在していた慣習は勿論のこととして、たとえ契約当時には未だ慣習として充分に熟していなかつたが、その後になつて事情の変更があり、そのため確立するに至つた慣習であつても、その慣習に従つて賃貸借関係を処理する旨を約したものと認めるのが、当事者の合理的意思に添い、かつ公平の理念に合致するものというべきである。

前記の更新料支払の慣習は、本件契約の成立時に既に確立していたかどうか定かではないが、更新時に成立していたことは明らかである。

(三)  次に、更新料の額について検討する。この点は理論的には更新料の性格の問題と関連することになろう。更新料の意味ないし性格については、賃料の一部後払、賃料の一部前払、異議権放棄の対価、権利金の補充等々種々の考え方がある。恐らく、具体的なケースを後で分析してみれば右のいづれか又はいくつかの複合であろう。従つて、本来はケース毎に算出の方法が異なるべきことになろう。しかし、実際上は、当事者の意思は、要するに更新料支払の慣習があるからそれに従うというだけのことであり、従つて、その額も慣習に従つて決められている場合が極めて多いのである。

又、当事者の間に具体的な額についての合意が成立しなかつた本件のような場合は、どのようにして額を決めるかという問題がある。しかし、既に賃借人は更新料支払の義務があるのであるから、具体的な額の合意がないからといつて支払わなくてもよいということにはならない。この点は、賃貸借契約を結びながら具体的な賃料の定めをしていなかつた場合と同様である。結局いづれの場合も諸般の事情を考慮して裁判所が具体的な額を決定するより外に方法がない。

そこで、本件においては、<証拠>および弁論の全趣旨によれば、更新料は、それぞれ本件各土地の借地権価格(更地価格の七〇%前後と認める。)の三%前後が適当であると考えられる。<証拠>によれば、本件各土地の更新時の更地価格はそれぞれ金二、一二〇万円(伊達)、金一、九九〇万円(田島)、金二、四四〇万円(笠井)位と認められ、結局、更新料はそれぞれ金四五万円、金四二万円、金五一万円をもつて相当額と認める。

3  抗弁について判断する。

借地法の法定更新の規定は、賃借人に借地権の続継的保有を保障することを主眼としたものである。従つて、確かに、更新料の支払が更新の条件とされ、その支払がないときは更新の効果を生じないというのであれば、そのような慣習ないし合意は右規定に反することになるであろう。しかし、更新料の支払は更新の条件となるものではなく、更新の効果はその支払に拘りなく法定の要件に従つて発生するのであり、単に更新を契機として更新料という金銭支払義務のみを賃借人が負担するというのであれば、これをも禁する趣旨であると解する必要はない。前者の場合は、借地権を失うおそれがあるのに対し、後者の場合はその危険がないからである。賃借人の保護としてはそれで充分ということができるであろう。(ちなみに、もし、更新料の性格を賃料の一部支払、殊に後払的なものと解するならば、更新時にそれを支払うのは当然であり、異議権放棄の対価とみても、やはり更新時に支払うべきものであつて、更新時に金銭支払義務を負担すること自体は許されるものと解すべきである。)

前記の更新料支払の慣習も右の後者の趣旨に解すべきであり、従つて前記法条に反するものではないというべきである。

更に、実際的根拠として、更新料の支払は既に慣習として確立しているため大多数の更新の場合に実際に支払われており(支払われない場合は免除したものと考えるべきである。)、又、裁判上の和解においても認められてきている。従つて、これを強行規定違反とすると、右の支払はすべて無効となり、不当利得返還の問題を生じてきて、社会に無用の混乱を招くことになろう。

(なお、右の場合における更新料は合意更新に際して支払われるものであるから有効なのであり、法定更新の際の更新料とは異るとする見解があり得よう。しかし、法定更新と合意更新との間に実質的区別を認めるべきものでないことは前述の通りであり、もし法定更新における更新料の支払が強行性に反して無効であると認められるべきであるならば、合意更新における場合も同様に解すべきである。そうではなくて、前述のように、更新料の支払は有効と考えるべきであるが、それが有効なのは合意更新に際して行われるからではなくて、前記の理由によりそれが借地法に違反しないと解されるからである。そうして、近年既に相当長期間に亘る慣習の下に、大多数の当事者が更新料支払の有効を前提としてこれを支払つてきているのであるから、もはやこの事実を直視してこれに裁判上の確認を与えるべき段階に来ているものというべきである。法廷で争う余裕のあるごく少数の者のみが支払を免がれるとするのは、かえつて公平を失することになるであろう。)

以上の理由により、各被告は、原告に対して、更新料としてそれぞれ前記金員およびこれに対するいづれも訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年一〇月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。しかし、それ以上の原告の請求は認められないので、その部分はこれを棄却することとする。

三訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条適用。

(武藤春光)

物件目録<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!